最近の研究から(2021年まで)
2021年5月27日
新しい論文をJournal of Neuroscienceに発表しました
これまでの研究から、アミロイドβ(Aβ)代謝の破綻がアルツハイマー病(AD)の病態形成に影響を与えることが示されています。脳内Aβ代謝にはアストロサイトがAβ分解酵素を産生することで関与していますが、その詳細な制御メカニズムについては不明です。本研究では、ω3脂肪酸受容体であるGPR120のシグナルがアストロサイトのAβ分解活性を抑制することを見出しました。また、このメカニズムとして、GPR120シグナルがAβ分解酵素の1つであるMatrix metalloproteinase 14(MMP14)の活性を抑制することを明らかにしました。加えて、GPR120遮断薬の投与がADモデルマウス脳内のAβ量を顕著に減少させたことから、今後GPR120シグナルがADの新規創薬標的となることが期待されます。本研究成果は慶應義塾大学薬学部との共同研究として行われました。
2021年5月25日
新しい論文をHuman Molecular Geneticsに発表しました
Leucine-rich repeat kinase 2 (LRRK2)は家族性パーキンソン病の原因遺伝子として知られています。Lrrk2を欠損させたマウスの肺では層板小体と呼ばれるリソソーム関連オルガネラが肥大化することから、LRRK2は層板小体の形態や機能維持に関与することが示唆されています。しかし、その詳細な分子メカニズムは明らかでありません。本研究ではプロテオミクス解析により、野生型マウスとLrrk2欠損マウスの層板小体プロテオームを比較し、BORCS6がLRRK2の下流で層板小体の肥大化に関与することを明らかにしました。また、LRRK2-BORCS6経路が層板小体のエキソサイトーシスを制御することを示唆しました。本研究の成果は未だ明らかにされていない脳におけるLRRK2の機能解明につながることが期待されます。本研究成果はバイオジェン・ジャパンとの社会連携講座における共同研究成果です。
2021年4月14日
新しい論文をBrainに発表しました
アルツハイマー病(AD)の発症原因の一つとして、脳内にamyloid β peptide(Aβ)が凝集・蓄積することが挙げられます。我々はこれまで、東大薬有機合成化学教室の金井求教授、相馬洋平グループリーダーと共に、光刺激によって活性化される光酸素化触媒を開発し、Aβに対する選択的な酸素原子付加によって凝集を阻害する戦略を見出してきました。今回、ADモデルマウス脳内におけるAβの光酸素化に成功し、光酸素化による凝集抑制効果だけでなく、凝集Aβの分解・除去が亢進することを見出しました。また、光酸素化された凝集Aβの分解・除去機構に、脳内免疫担当細胞であるミクログリアが関与することも明らかにしました。AD患者脳由来のAβに対しても光酸素化が可能であることも見出しており、これらの研究成果は、今後、光酸素化触媒を用いたADに対する新規予防・治療戦略の提示に繋がることが期待されます。プレスリリースはこちら(英語版)とこちら(日本語版)およびこちら(東大サイト)です。 紹介記事が日本の研究.com、日刊工業新聞、Med IT Iech、EurekAlert!、Photonics.com、ScienceDaily、FLORIDA News Times、Intresting Engineeering、日経バイオテクに掲載されました。
2021年3月25日
新しい論文をScience Advancesに発表しました
アルツハイマー病(AD)発症の原因の一つとして、amyloid β peptide(Aβ)が異常に凝集してアミロイドを形成し、脳内に蓄積することが挙げられます。我々は、これまで東大薬有機合成化学教室の金井求教授、相馬洋平グループリーダーと共に、光によって活性化する光酸素化触媒を用いて、凝集したAβに対して酸素修飾を付加する手法を開発し、それによってAβの効率的な除去が可能であることを見出してきました。本研究では、この手法を治療法として応用するために、脳移行性の高い新たな触媒を開発し、触媒の静脈投与と頭蓋骨外からの光照射という非侵襲的な方法で、ADモデルマウス脳内の蓄積Aβに対して選択的に酸素を付加することに成功しました。この非侵襲的酸素化反応を長期間継続すると、ADモデルマウス脳内の蓄積Aβ量を減少できることも明らかにしました。この結果は、今後、画期的な新規AD治療法の創出に繋がることが期待されます。プレスリリースはこちらです。紹介記事が日本の研究.com、日経バイオテクに掲載されました。
2020年9月1日
新しい論文をMolecular Autismに発表しました
Neuroliginはシナプスオーガナイザーとして知られる接着分子ファミリーであり、神経細胞間シナプスの形成や維持に関わっています。X染色体上に存在するNLGN4X遺伝子にコードされるNL4Xはヒト特異的なNeuroliginであり、自閉症患者や精神遅滞患者においてナンセンス変異が見いだされていることから、NL4Xによるシナプス形成能の低下がこれらの疾患発症メカニズムに関わることが示唆されています。一方、NLGN4X遺伝子上には様々なミスセンス変異も見いだされています。これらの変異がNL4Xの代謝と機能にどのような影響を及ぼすかについて体系的に解析し、小胞体におけるフォールディング異常を引き起こすタイプと、細胞表面膜上でのタンパク分解(シェディング)を亢進させるタイプの変異があることを見出しました。そしてそれぞれフォールディングを回復させる薬剤や、シェディング阻害剤によってNL4Xのシナプス形成能が回復することを見出し、自閉症や精神遅滞の治療における遺伝子型診断に基づいた精密医療の可能性を提示しました。本研究は当研究科産学連携共同研究室(塩野義)と、慶應大学医学部との共同研究で行われました。
2020年4月20日
新しい論文をFASEB Journalに発表しました
アルツハイマー病(AD)に特徴的な病理学的所見として、アミロイドβペプチド(Aβ)の異常な脳内蓄積が挙げられます。Aβは、前駆体タンパク質APPからβとγセクレターゼによって二段階の切断をうけ産生されます。Aβの凝集・蓄積はAD発症の最初期に生じ、続いて神経細胞内にタウの凝集・蓄積を引き起こして神経変性に至ることが示唆されています。しかしその最初期過程であるAβ産生に関する詳細なメカニズムは未だ明らかになっておらず、根本的治療法も確立されていません。本研究では、ゲノム編集技術であるCRISPR/Cas9システムを用いて、Aβ産生制御に関わる新規分子calcium and integrin-binding protein 1(CIB1)の同定とその産生制御メカニズムを明らかにしました。CIB1の欠損によりAβ産生が上昇しました。またCIB1発現量の減少は、γセクレターゼの総量には影響を与えない一方で、γセクレターゼの細胞表面膜の存在量を減少させました。当研究室の先行研究から、γセクレターゼの細胞内局在部位によってAβ産生量が変動することがわかっています。すなわち本研究は、CIB1発現量の減少によってγセクレターゼの内在化が亢進することでAβ産生が増加すると考えられます。さらに初期AD患者脳においてCIB1発現量の低下が認められました。このことは、初期に起きたCIB1の変容がAD発症に寄与することを示唆していると考えられます。 今後、このCIB1を標的とした新たなAD治療・予防戦略の提示、早期診断法の開発に繋がることが期待されます。本研究は新潟大学脳研究所との共同研究で行われました。プレスリリースはこちらとこちらです。紹介記事が日本の研究.com、日経新聞ウェブサイト、QLife Pro、BioSpace、ScienceDaily、Medical Xpress、UsAgainstAlzheimer'sサイト、CitizenSide(フランス語サイト)に掲載されました。