第29回日本病態プロテアーゼ学会学術集会の会長を仰せつかりました東京大学大学院薬学系研究科の富田泰輔と申します。日本病態プロテアーゼ学会は、「病態と治療におけるプロテアーゼとインヒビター研究会」として発足し、臨床・基礎・企業のプロテアーゼとインヒビター研究者がお互いに同等の立場から意見を交換し、それぞれの研究者が明日からのプロテアーゼとインヒビター研究への確かな一歩を踏み出すために役立つ事を目的にしています。毎年1回学術集会を開催し、プロテアーゼ研究の専門家が一同に会し、先端的研究の発表と討論をする機会を提供しています。
私自身が30年近く研究してきたプロテアーゼであるγセクレターゼは、アミロイドβ産生を通じてアルツハイマー病に関わる一方で、Notch切断によって細胞運命を決定し、また多数の基質があることから「膜タンパクのプロテアソーム」とも呼ばれ、様々な顔をもっていました。そこで第29回日本病態プロテアーゼ学会学術集会は、「破壊と創造は表裏一体!」をテーマとさせていただきました。これは私が好きな漫画のひとつである、荒川弘先生による「鋼の錬金術師(スクウェア・エニックス)」に登場するアレックス・ルイ・アームストロングという人物が叫ぶ一言です。タンパク分解酵素としてのプロテアーゼは細胞内において物質の「破壊」を司ります。一方、プロテアーゼによる切断産物が新たなシグナル経路や細胞応答を開始させることも知られています。血液凝固系に関わるFactor Xaやアポトーシスを制御するカスパーゼは新たな生体応答の「創造」を担っているとも言えます。つまり、プロテアーゼこそ、表裏一体の顔をもつ生体分子なのです。そしてこの表裏一体であるはずの「破壊と創造」のバランスの破綻は、切断産物の異常を引き起こし、最終的に疾病発症につながることも知られています。このテーマのもと、本学術集会では生体における破壊と創造を担うプロテアーゼの生理的・病的意義を理解すると同時に、その活性制御技術を利用した治療・診断法の開発を目指すための絶好の機会になるようにしたいと考えています。
そこでワークショップとシンポジウムでは、我が国におけるプロテアーゼおよびインヒビター研究の第一線のアカデミアの先生方や若手研究者にお話しいただく他、実際にプロテアーゼ活性を利用した社会実装を進めている製薬企業の研究を担当されている方からもご講演いただくプログラムとさせていただきました。また教育講演では細胞における破壊の場として古くから知られており、近年では新たな細胞シグナルの起点としても注目されているリソソームの研究を続けておられる内山安男先生(順天堂大学大学院医学研究科)にご講演いただくこととしました。加えて、特別講演ではプロテアーゼ活性異常による疾患の代表的なもののひとつであるアルツハイマー病の病理学的研究から疾患基礎研究へと展開し、近年承認された抗体医薬レカネマブの開発にも携わられた岩坪威先生(東京大学大学院医学系研究科)にご講演をお願いし、基礎医学・薬学研究から臨床研究、さらには医薬品開発への道筋をお話頂こうと思います。
学術集会の会場としては、東京大学薬学部講堂(東京都文京区本郷)にて2024年9月6日(金)7日(土)に行う予定にしております。残暑厳しいタイミングとなることが予想されますが、プロテアーゼ・インヒビター研究者が集い、生体内の「破壊と創造」について熱い討論が交わされることを楽しみにしております。多くの皆様のご参加をお待ちしております。
第29回日本病態プロテアーゼ学会学術集会長
富田 泰輔(東京大学大学院薬学系研究科 機能病態学教室 教授)